艦これ劇場版感想

前提条件

地上波シリーズと関連性の非常に高い、というよりはそのものの続編であるため、地上波を視聴済みの必要があります。初めて艦これアニメに触れる人への配慮等は全くありませんので注意が必要です。

全体評価

特別面白いというストーリーでもなく、アクションの出来が素晴らしくて魅せるアニメというわけでもありません。一応の筋は通った凡庸なストーリーがあって、結局は俺たちの戦いはこれからだエンドに終わるため肩すかしを食らった感じを受ける人も多いでしょう。

基本的に艦これ劇場版は艦これ劇場版単体で評価することは不可能な作品であるのです。地上波でしっかりと話を完結させず(できず?)別媒体で完結させることそのものの是非は置いておいて、地上波シリーズの構成や製作背景を知らないと正しい評価はできません。私は地上波シリーズが好きだった人間として、この感想を書くために2週目を見た人間として、艦これ劇場版の評価は”至極普通な出来”であるとします。面白い映画を期待して見ると期待外れだが、暇だったから程度の理由で見ればそれなりに楽しいです。

地上波シリーズでの問題点

先に述べたように艦これ劇場版は地上波シリーズの知識がないと正当な評価はできません。世間では問題作とされた地上波シリーズの問題点は以下のようなものがあるそうです。
・不快なキャラがいる(特に大井)
・同人設定の流用過多(足柄の合コンや赤城の大食い)
・海上シーンはキャラがCGで描かれており切り替え時に違和感が結構ある
・提督が無能
・突然の如月轟沈
・如月轟沈のあとの空気にそぐわないギャグ回
・11話からの突然のループ設定
・12話の空母を倒すとループを離脱できる理由が不明
・戦闘に動きがあまりなく冗長
・吹雪の成長物語と思っていたが主人公は赤城だった
・原作(ブラゲー)台詞の不自然な流用

地上波シリーズの不評は概ねストーリーと脚本に芯が通ってないことにあるようです。原作台詞や同人設定の流用はファンサービスであったのだろうと思います。ですがそもそもがターゲットを取り違えました。原作ファンや同人に浸かっている人は艦娘たちのキャッキャウフフとギャグを求めていたのです。6話カレー回の評判だけが大層高いのがそれを裏付けています。よく言われますがシリアスに振るかギャグに振るかが中途半端で、ターゲットとしている客層の求めるものを作ることができなかったのが地上波の敗因です。

なお、私は原作にも同人にも全く触れておらず地上波で初めて艦これに触れたという稀有な人間です。その目からすると地上波は突然のループ設定と不快な大井以外は見られるものでした。6話こそが不要な回だったとすら思います。ギャグを取っ払って尺をもう少し詰めて劇場版のストーリーまで地上波でやっていれば…。総監督というのかプロデューサーというのかよく分かりませんがそのぐらいの立場の人は劇場版の話までを全部やりたかったんだと思います。いや、そう信じたい。決して免罪符にはなりませんがいろんな人の思惑が重なりあった結果最後2話の超展開になったと感じられます。それらを踏まえてここからが劇場版の感想の詳細となります。

キャラ評価

特に不快なキャラはおらずみんなかっこよくてかわいかったかと思います。懸念された大井劇場もなく出てくる艦娘に関してはかわいく描けています。かわいく動く艦娘を見たいんだという人は見に行くといいでしょう。吹雪、鳥海、天龍、夕立、長門、瑞鶴、大淀、川内、神通、時津風、龍驤辺りは優遇されていますのでこれらが嫁艦ならば是非見に行きましょう。大和、赤城、加賀辺りは台詞は多めですが説明のための舞台装置感がぬぐえません。吹雪もか。川内さん好きな私としては終盤のたった一言の「夜はいいねえ」という台詞が聞けて満足しています。天龍に関しては「ちょww」って感じるかと。

ストーリー構成について

特に状況の説明等はなく戦闘→次の戦いへの動機づけ→最終決戦という某戦車エンタテイメントな流れを踏襲しています。陳腐と言えば陳腐ですが安心して見ることができます。「カエシテ…」の声は地上波シリーズのラストシーンでも流れていましたね。この声によって劇場版は地上波の正当な続編という主張をはっきりと行います。

動機づけパートでは、日常を織り交ぜながらも如月の処遇や新たに発生した謎、敵勢力の発見報告が飛んできたり、次の作戦開始が近いことをうまく匂わせています。地上波シリーズの4話前半や6話のような本当にゆるゆるな日常ではありませんが、緊張感を失わない程度に和みがあり良いバランスで構成されていると思います。一場面で一気に説明せずに、艦娘という存在が徐々に明らかになってくるのは(もっとも、地上波シリーズのとき大方が予想していた内容ではあるのですが)いい意味で視聴者に不安感を与えています。

最終的には中心部に辿り着いた吹雪がなんやかんや超パワーで解決するわけですが、強引に話を締めに来たなと感じましたし、ここのセリフ回しが陳腐だなあとも感じました。深海吹雪はかっこかわいいので私的には満足してるんですが、ちゃんと風呂敷畳んだのかと言われるとノーという回答ですね。ノーではあるんですが、軍艦と艦娘は同一の存在であることや、深海棲艦と艦娘は終わりのない戦いを行っていること、吹雪が特別な理由(ちょっと強引ですが)などに回答を出したことはある程度評価できると思います。

演出について

上映開始後何の説明もなしにいきなり戦闘が始まりますが、砲撃や移動のアクションは非常に良くできていて見ているだけで楽しいパートです。夜にありがちな画面が暗くて何をしているのか判別できないということもなく、鳥海加古古鷹天龍衣笠とあとなんかもう一人が危なげなく勝利します。照明を撃ってから狙いを定めるという流れもいい演出だと思います。

また、地上波ではW島やMI作戦などのぼかした表現を用いてたのに対して劇場版ではアイアンボトムサウンドという現実の名称を用いてきたのが印象的ですね。地上波時点では正式名は使えなかったんでしょうか。艦これの権利関係とかそういう情報は知らないんですが、地上波は世界観を曖昧にしようとする意思を感じましたし、視聴料を徴収するという運営方法の映画公開だから、しがらみがなくいろいろふっ切れたのかもしれません。現実名を使うことでふんわりした印象を変えてきています。なお、私は知らなかったですが、最終決戦の艦隊はアイアンボトムサウンドに実際に突入した艦を多く選んでるみたいです。夕立が謎の大戦果をあげるのも実際の戦いで戦果をあげていたかららしいです。 あと演出面については長門による作戦説明がちょっと冗長な感じはしました。帰還時の茫然とした吹雪はとても良いと思います。

作画について

前半部は何も問題ありません。地上波シリーズで問題とされていたCGをやめたのは英断だと思います。しかし後半の総力戦での作画が怪しいですね。顔のアップや一人全身絵ぐらいの構図だと問題はないのですが、少し引いた構図のときに明らかに顔のパーツが乱れます。製作費なのか納期が原因なのかわかりませんが、乱れている事実は事実。指摘せざるを得ません。地上波であれば許容できる範囲ではありますが映画という媒体である以上もう少しなんとかしてほしかった。

地上波からの改善

先に挙げた地上波の問題点はほぼ解決されていると言えます。言い方を変えると地上波シリーズ視聴者へ向けたお詫び映像であるとも言えます。

疑問の数々

地上波時点では明言されなかった世界設定がある程度明確に描写されました。
・艦娘は本来の軍艦と同様の存在(生まれ変わり)であること
・艦娘と深海棲艦は表裏の存在であること
の二点が主です。

なお未だ明言されておらず筆者が気になっている疑問点は以下です。
・この世界に人間はいるのか
・提督とはどんな存在なのか

他は後付け設定に無理があるのが残念ですね。加賀さんは実は深海棲艦として艦娘と戦っていたときの記憶を(おぼろげではあるが)持っていることや艦娘は深海棲艦と変化する事実を長門や金剛たちは知っていたこと。流石にTVの続編として作るには強引すぎるかなと思います。

余談

地上波シリーズは劇場版のストーリーまで見越していたことが一発で分かるものがあります。それは地上波主題歌「海色」の歌詞です。「鎮守府生活のすゝめ Vol.5」のインタビュー内で、オープニングには物語の根幹を盛り込んでいる、との発言があったらしいですが、確かに劇場版を見た後に歌詞を改めて歌詞中の「私」は深海吹雪、「あなた」は艦娘吹雪として読むといろいろとしっくりきます。

まとめ

映画そのものは傑作でも駄作でもなく凡作ではありますが、政治的な理由で問題だらけに終わったTVシリーズの舵の切り直しという目的は達成した作品です。

艦これプロデューサー田中氏の「沈んでいった艦艇を忘れないでほしい」という思いを汲んで、
多くの艦これファンが望んでいるであろうギャグや日常を捨ててシリアス方面に進みました。
今後の展開に期待を持たせるには十分な出来だったと思います。